Employee Experience(EX)とその全体像。EX診断つき
こんにちわ。てぃーびーです。
私が所属するエンジニアリング統括室は Employee Experience(以降 EX) を向上させ、開発者の縁の下の力持ちになるのがミッションのチームです。 EX を高めるための施策を担当するわけですが、では EX とは何なのか?周辺の概念とともに整理します。
EX 関連用語
EX 関連の用語を整理します。各用語は書籍「エンプロイー・エクスペリエンス」からのものです。
Employee Experience(EX) / 従業員体験
EX は従業員が組織での体験の中から、組織との関わりをどう捉えているか?ポジティブなのか、ネガティブなのか? その評価を表す概念です。EX は個人の職場に対する期待と、実際の体験と、それをどう捉えるかという認識によって変化します。
- 体験 : 期待 > 認識 : 期待をこえて大満足
- 体験 : 期待 = 認識 : 期待通りで満足
- 体験 : 期待 < 認識 : 期待未満で不満
EX は同じ体験をしても個人によって捉え方が違います。例えば、仕事は一人で粛々とをすすめるもの、という価値観を持ち、そういった労働環境を期待している田中さんがいたとします。逆に仕事はチームで成し遂げるもの、という価値観を持ち、そういった労働環境を期待している鈴木さんがいたとします。個人重視の田中さんとチーム重視の鈴木さんの双方が個人重視の組織に所属した場合、田中さんにとっては満足で、鈴木さんにとっては不満と認識される体験となります。
とはいえ多くの労働者にとって共通で嬉しい体験もあるでしょう。例えば、待遇向上・心理的安全性の高い職場・自由度の高い労働環境など。そう考えると従業員体験を向上させるための施策は
- 共通施策 - 多くの従業員が求める体験を作り出す施策。組織の MVV を加味した体験の向上は特に重視される
- 個別施策 - 個々の社員によって求めるところが異なる体験を作り出す施策
に分かれることになります。共通施策は社内のより広い範囲・大きい分母に対して効果が見込まれるものになり、組織施策を担当する私達のような人たちが担当し、個別施策は 1on1 を通してマネージャーがケアしたり、チーム内での相互理解を深めた結果、より近い範囲の関係者で満たしていくことになるでしょう。
Employee Engagement(EE) / 従業員エンゲージメント
EE は従業員が組織についてポジティブに捉え、共感し、強くコミットして働くような状態です。似た概念として従業員満足度がありますが、こちらは従業員が満足しているかどうかを表すのに対し、 EE は事業への貢献につながっています。いくら従業員が個人的に満足していても、組織の業績に対する貢献の要素がなければ企業としてなりたちません。そのため、従業員満足度よりも EE が重要になります。
では、どうしたら EE が高まるか?後述の従業員アラインメントによって個々人が求める要素が満たされ、個々人が所属組織にも貢献したい、と思っている状態にすることです。
Expectation Alignment(EA) / 期待整合
EA は以下の2つの整合です。
- 従業員が組織での活動を通した体験で、自己の期待が満たされていると感じるかどうか
- 従業員が組織のゴールに向け、組織が個人に期待する貢献をしてくれているかどうか
個人から見ると「キャリアやその他の労働環境に求める部分を満たしてもらえるなら、あなたが求める事業への貢献に全力を尽くします」と考え、実際に行動している状態であり、組織から見ると「あなたが事業への貢献に全力を尽くしてくれるなら、私もあなたのキャリアやその他の労働環境に求める要素を満たします」と考え、実際に行動している状態です。GIVE & TAKE。
逆に言うと
- 個人「私が求めるものをとにかく提供してほしい。仕事はできるだけしたくないけど」
- 組織「組織のために全力で働いてほしい。キャリアはサポートしないし、待遇は低めにするけど」
となると EA が不整合ということになります。 TAKE VS TAKE。
Expectation Alignment Dysfunction(EAD) / 期待整合不全
組織内の一定以上の従業員の EA が整合していない状態が EAD です。 いわゆる組織崩壊のケースはここにあたりそうですね。組織崩壊後に、全力でテコ入れして健全な状態を取り戻しているケースは、 EA の不整合を一つひとつ見直し、整合させていった、と捉えることができます。
Contract / 契約
EX は期待と満足からなりますが、何に対して満足するかの対象が契約です。 契約には以下の3種類があります。
- ブランド契約 - 接点を持つ人々がコーポレートブランドから読み取るもの
- 取引的契約 - お互いの関係を維持するために双方が承諾したもの。明示的なもの
- 心理的契約 - 暗黙的な期待や義務
ブランド契約は企業が発信する情報からブランドとして定着しているような要素が典型です。 例えば、「クラスメソッドといえばブログの会社」というのはブランドになっていて、この情報を信頼し、会社に入る方々は情報発信文化への期待を持ちます。
取引的契約の典型は雇用契約関連の書類です。給与、労働時間、福利厚生などあれこれが明示されていますね。
心理的契約は各自が求める期待を暗黙的に頭の中では持っているが、明示していない状態です。例としては、残業時間が少ないことを頭の中では求めているが、選考〜入社過程でそれを一言も話していない社員が入社したが、実際に入ってみたら毎月稼働が高かった場合などです。残念ながら人はエスパーではないので他人の頭の中を見ることはできません。暗黙の契約はトラブルのもとなので、明示していけるようなやりとりが大事になります。要は、上司・同僚に不足・不満を気兼ねなく話せる関係性です。
Employee Lifecycle(EL) / 従業員ライフサイクル
EL は認知、選考などからはじまり入社、オンボーディング、昇進、退職などへと遷移していく従業員が組織と関わる上でのライフサイクルです。この一連のライフサイクルの中で従業員は多様な体験をし、それが EX となり、その質によって EE の程度が変わってきます。EX の取り組みでは EL を見渡し、どの部分に課題があり、現状のボトルネックはどこで、どのようなテコ入れをして EA を整合させていくかを検討することになります。
メルカリさんの Employee Journey Story for engineers(PDF) がわかりやすいです。
Moments of Truth(MoT) / 真実の瞬間
真実の瞬間は契約が満たされるかどうか確認できる瞬間です。先の残業の例でいうと、実際に数ヶ月在籍してみて残業時間がどうだったか、が MoT になります。仮に残業時間が低めだった場合は、暗黙の期待だった心理的契約が満たされ、満足します。逆に過剰に多かった場合は、心理的契約が満たされず不満を持ちます。この不整合が発覚したときに、お互いの期待するところの確認ができ、状況を変えていければ下がったエンゲージメントを高めることができます。
取引的契約は明示されていることもあり、真実の瞬間において大きなギャップにつながらないことが多いかと思いますが、外部の発信などから形成されるブランド契約と、個々人が頭の中で持っている心理的契約はこの真実の瞬間でギャップが発生しやすいでしょう。例えば、ブランド契約のもととなる組織の発信内容については実態に基づき美化しすぎないように発信しておかないと、いざ入社したらそこまで大きな魅力ではなかった、ということが起こりえます。また、発信内容がポジティブな内容に偏りすぎていると、入社後に遭遇した組織課題への不満が高まってしまうかもしれません。問題、課題なども合わせて外から見えるようになっていると、ギャップが発生しにくいでしょう。
EX の全体像
従業員はそれぞれキャリアや労働環境への期待(=各種契約)をもって入社してきます。多くのケースでは前職で実現できなかった期待を求めているでしょう。 EL を通して、その期待が満たされたかどうか真実の瞬間が繰り返し訪れます。真実の瞬間の結果次第で、EXが良好であるかどうかが決まり、その結果次第で EE の高低が決まります。
エンジニアリング統括室の仕事は、 EX を良好にし、 EE を高めることです。そのために EL を見渡し、各所で発生する真実の瞬間においてどこに大きな課題があるかを発見し、テコ入れをし、 EX を改善しつづけることになります。 EA が整合した良好な EX という理想を実現していくエンジニアリングと言えるでしょう。
職種の命名
このような経緯から、私は自分の職種を Employee Experience Engineer と名乗ることにしました。
EX 診断
仕事での体験を通して職場をどのように感じていますか?
- キャリア・働く上で重視していること・周辺の細かな期待も含めほぼ満たされている。組織の成果に向けて今の職場で働くのが楽しい
- 多少の不足は感じるが、キャリア・働く上で重視していること・周辺の細かな期待は比較的満たされている。どちらかといえば今の職場は楽しい
- キャリア・働く上で重視していること・周辺の細かな期待のどちらもあまり満たされていない。とはいえ今の職場は嫌いというほどではなく、辞めるほどではない
- キャリア・働く上で重視していることや・周辺の細かな期待のどちらもほぼ満たされていない。今の職場が嫌いで、早く辞めたい
まとめ
エンジニアリング統括室は立ち上がったばかりで、チームの MVV を固める部分から動き出したところです。クラスメソッドはオープンな発想で情報発信をすることを良しとする会社です。私達エンジニアリング統括部も、活動の流れで得た知見・経験を積極的に発信していきます。